週に2回、学生たちと昼食を一緒にとっています。そのときに、『歴史地理教育』の記事のなかから、気に入ったものをビブリオバトル風に紹介してもらっています。
以下に、その中から実践記録を紹介したものを載せていきます。みなさんが、ご自分の授業を構想するときに参考になることを願っています。
紹介者:Y.井上(平成29年度 ゼミ4年生)
最初に、みなさんに質問があります。北海道ってどんなイメージがありますか。私は土地が広大で、自然豊かなところだと思っています。今日はそんな北海道の開拓、アイヌの人々の授業です。
この授業は中学校社会、歴史の開拓使と屯田兵の学習です。授業者は札幌市立真駒内中学校の平井敦子さんです。
この授業では初めに「北海道に移住してみよう!」というところから始まります。広大な土地をもらえると平井さんから言われた生徒たちは、自分がどの土地に住もうかとわくわくしながら考えていきます。しかしそんな広大な土地の実情はこれです。(下の写真参照)まさか土地がこんな風だとはだれも思わなかったのです。ですから、開拓に入った人たちは過酷な自然との苦闘の連続という憂き目にあったのです。
北海道庁殖民部の甘い言葉にのって開拓に入った人たちは確かに苦労しました。しかしここで一つ疑問が生まれます。こんな広大な土地、元は誰のものだったのでしょうか。実はアイヌの人々が所有していた土地なのです。アイヌ民族は政府により「平民」として戸籍編成され、その同化政策が進められました。アイヌ民族の土地、風俗、習慣、狩猟は明治政府によって奪われました。しかし、移住してくる人たちは、まさか自分たちがもらえる土地が”官がアイヌから奪った土地”だとは思ってもいませんでした。
生徒たちも同じでした。生徒は、平井さんに言われるまま土地選びを始めました。そしてそれを楽しんでいたのです。まさか自分たちのこの行為がアイヌの人々の迫害につながっているとは思ってもいませんでした。だから平井さんに「前回の授業で、みんな楽しそうに土地探しをしていたね。ただだったね。その土地、誰の?」と突っ込まれたときには口をぽかっと開き目を点にしたのです。
このような「無自覚の迫害」を実感させることがこの授業のねらいでした。吉田先生がその著書で書いているように、近年では、教科書記述におけるアイヌ民族関係の記述はずいぶん改善されてきました。それでもまだ不十分であることが、平井さんの文章を読んでいて明らかになりました。また、「アイヌ民族なんてもういない」とは発言する議員までいるということも知りました。正直、驚きました。
歴史を知り、先住民族の権利実現を推進する社会にならなければならない、と平井さんは述べています。その通りだと思います。
この授業記録を読んで、参考にしたい点が2つありました。
一つは、生徒が興味・関心を持って授業を聞いているという点です。最初に土地選択をさせることにより、児童の興味・関心が上がりそのあとの授業もしっかりと聞いていたのではないかと考えます。最初の土地選択がなければ、その後のアイヌ民族の迫害も自分事として捉えることができないと考えます。自分もこういう授業をつくりたいと思いました。
二つ目は、「無自覚の迫害」が現代の自分たちにもあるのではないか、ということです。私はこれまで北海道の開拓がアイヌ民族を迫害していたとは考えてもいませんでした。このような無自覚の迫害を現代では起こさないようにするためにも、アイヌ民族の権利問題を考えなければいけません。