週に2回、学生たちと昼食を一緒にとっています。そのときに、『歴史地理教育』の記事のなかから、気に入ったものをビブリオバトル風に紹介してもらっています。

 

 以下に、その中から実践記録を紹介したものを載せていきます。みなさんが、ご自分の授業を構想するときに参考になることを願っています。

 

平井敦子「ようし 北海道に移住するぞ!」と決断した模擬家族  (『歴史地理教育』平成29年4月号、pp. 40‐45  )

紹介者:Y.井上(平成29年度 ゼミ4年生)

 

最初に、みなさんに質問があります。北海道ってどんなイメージがありますか。私は土地が広大で、自然豊かなところだと思っています。今日はそんな北海道の開拓、アイヌの人々の授業です。

この授業は中学校社会、歴史の開拓使と屯田兵の学習です。授業者は札幌市立真駒内中学校の平井敦子さんです。

  この授業では初めに「北海道に移住してみよう!」というところから始まります。広大な土地をもらえると平井さんから言われた生徒たちは、自分がどの土地に住もうかとわくわくしながら考えていきます。しかしそんな広大な土地の実情はこれです。(下の写真参照)まさか土地がこんな風だとはだれも思わなかったのです。ですから、開拓に入った人たちは過酷な自然との苦闘の連続という憂き目にあったのです。

  北海道庁殖民部の甘い言葉にのって開拓に入った人たちは確かに苦労しました。しかしここで一つ疑問が生まれます。こんな広大な土地、元は誰のものだったのでしょうか。実はアイヌの人々が所有していた土地なのです。アイヌ民族は政府により「平民」として戸籍編成され、その同化政策が進められました。アイヌ民族の土地、風俗、習慣、狩猟は明治政府によって奪われました。しかし、移住してくる人たちは、まさか自分たちがもらえる土地が”官がアイヌから奪った土地”だとは思ってもいませんでした。

生徒たちも同じでした。生徒は、平井さんに言われるまま土地選びを始めました。そしてそれを楽しんでいたのです。まさか自分たちのこの行為がアイヌの人々の迫害につながっているとは思ってもいませんでした。だから平井さんに「前回の授業で、みんな楽しそうに土地探しをしていたね。ただだったね。その土地、誰の?」と突っ込まれたときには口をぽかっと開き目を点にしたのです。

 このような「無自覚の迫害」を実感させることがこの授業のねらいでした。吉田先生がその著書で書いているように、近年では、教科書記述におけるアイヌ民族関係の記述はずいぶん改善されてきました。それでもまだ不十分であることが、平井さんの文章を読んでいて明らかになりました。また、「アイヌ民族なんてもういない」とは発言する議員までいるということも知りました。正直、驚きました。

 歴史を知り、先住民族の権利実現を推進する社会にならなければならない、と平井さんは述べています。その通りだと思います。

  この授業記録を読んで、参考にしたい点が2つありました。

  つは、生徒が興味・関心を持って授業を聞いているという点です。最初に土地選択をさせることにより、児童の興味・関心が上がりそのあとの授業もしっかりと聞いていたのではないかと考えます。最初の土地選択がなければ、その後のアイヌ民族の迫害も自分事として捉えることができないと考えます。自分もこういう授業をつくりたいと思いました。

  つ目は、「無自覚の迫害」が現代の自分たちにもあるのではないか、ということです。私はこれまで北海道の開拓がアイヌ民族を迫害していたとは考えてもいませんでした。このような無自覚の迫害を現代では起こさないようにするためにも、アイヌ民族の権利問題を考えなければいけません。


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増田敦子「町たんけんは宝さがし」(『歴史地理教育』2017年、3月号、pp.34-39
紹介者:T.金野(平成29年度 ゼミ4年生)
町たんけんは宝さがし.pdf
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津崎俊介「小学生が戦争を考える‐戦後 70 年の節目に」 (『歴史地理教育』2017年、月号 pp. - )
紹介者:S.志賀(平成29年度 ゼミ4年生)
2017_志賀(戦争学習).pdf
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三橋昌平「沖縄と向き合った一年間」 (小学校4 年) (『歴史地理教育』2017 年4 月号 pp.34-39)
紹介者:M.中村(平成29年6月13日)平成29年度ゼミ4年生
ビブリオ 歴史地理教育 沖縄.pdf
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神山英「世界とつながるウチナーンチュ——異文化と自文化理解へ」(小学校6年生) 『歴史地理教育』2017年6月号
紹介者:M.森
ビブリオ風 歴史地理教育 沖縄
森君:神山英「世界とつながるウチナーンチュ」.pdf
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渥見利文「高校現代社会実践:ホームレスは公園に住めないの?」(『歴史地理教育』2017年6月号)
紹介者:M.山内
2017年6月27日_山内.pdf
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髙橋壮臣「中学校実践:聖武天皇の大仏造立を多面的・多角的に解釈する授業」
タイトルの通りです。なぜ、奈良の大仏がつくられたのか。それは人々にとってどういうものだったのか。これを聖武天皇の目から、また行基の目から等、多視点から学ばせるという実践です。(紹介者:Y.井上)
髙橋壮臣「中学校実践:聖武天皇の大仏造立を多面的・多角的に解釈する授業」(井上優
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